移調楽器の話がメインになっていますが、
本質的には音名・音程の部分に力を入れております。(笑)
【移調楽器について】
移調楽器というのは、
詳しい説明は省きますが簡単に言うと【基音がC(ド)ではない楽器】で、
小・中学校で習ったリコーダが一番身近な例だと思います。
ソプラノリコーダは全部の穴を塞ぐとドの音がなるのに、
ちょっと大きいアルトリコーダではファの音がなる。
そう。アルトリコーダは基音がCじゃなくF(ファ)の音になっているのです。
注)全部の穴を塞いで出た音が基音だという決まりはありません。
何気なく吹いていたアルトリコーダも、実はれっきとした移調楽器だったのです。
この楽器は例にも挙げました通り、Fが基音ですのでF管楽器ということになります。
ただ、ここでこんがらがってしまうのが、譜面の読み方です。
アルトリコーダは、基音のファをちゃんとファと実音で譜面に表記していますが、
(トロンボーン等も実はB管楽器なのですが、実音で記してあります。)
殆どの移調楽器はそうではありません。
僕達が普通に譜面で「ド」と読んでいる所に移調楽器の基音を入れて読んでいるのです。
例えばアルトリコーダがこのルールに則って表記されたなら、
【譜面のドの音=実音のファの音】ということになります。
譜面に「ドレミファソラシド〜」と書いてあってその通りに吹いても、
実際には「ファソラシbドレミファ〜」と鳴ってしまうのです。
なんでこんな面倒な表記なのでしょうか?
【移調楽器とその歴史】
管楽器の殆どは移調楽器で、管楽器は管の長さによって調が変化します。
管の長さを足せば音が低くなり、逆に小さくすれば音が上がるといった感じです。
しかもこれは音の高さが変わるだけでなく、
倍音の関係上、少なからず音色にも影響します。
例えばトランペット。トランペットは通常B管なのですが、
長2度高い(少し管体が小さい)C管のものもあります。
(もちろん、他の管も沢山あります。)
演奏者によって音色が変わるので一概に比べられないのですが、
基本的にC巻は丸く控えめな音になっており、
B管はやや明るい音色になっています。
同楽器でいくつもの調性があるものは、
演奏上の困難をなくすためという理由がほとんどですが、
上のように微妙に異なる性格の吹き分けにも用いられています。
バルブ発明以前の金管楽器は、
クルークと呼ばれる継ぎ足し管によって管の長さを変えることによって調性を変えるか、
楽器自体を交換するかによって調性を変えていました。
現在でも、ピッコロトランペットなどでは替え管を一緒に売っているものもあります。
今のように沢山のキーがついていなかった頃の木管楽器は、
音程の面から、その管の調性と違う曲を吹くことは非常に困難なことでした。
従って、木管楽器ではB管、A管、C管というように様々な長さの管の楽器が用意され、
違う調性の楽器毎にいちいち指使いを覚えることは面倒なことが発生しました。
しかし楽器側で調節するのではなく、楽譜であらかじめ音程を調節して書くことにより、
この問題を解決しました。
つまりA durをA管の楽器で吹くのには、
移調ドの「ドレミファソラシド」と思って指を動かせば
その音階が鳴るように楽譜の側を調節したのです。
これが、移調楽譜のはじまりです。
現在でこそA durの曲をB管の楽器で演奏するようなことは珍しくありませんが、
昔は上記の理由から管の長さの違う楽器への交換が自然と行われており、
現在一般に用いられている記譜法は、これまでの名残であると考えられます。
さて、ここからは少々専門的な言葉が出てきます。
先に進む前に、必要不可欠な専門知識のいくつかを簡単に説明します。
【音名の表記】
ここではこういう場での表記のし易さを考え、ドイツ音名を使います。
下記に記す音名を覚えた上で読んで下さい。
<幹音(#もフラットも付いてない音)>
| ドイツ | C(ツェー) | D(デー) | E(エー) | F(エフ) | G(ゲー) | A(アー) | H(ハー) | C(ツェー) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドレミ表記 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド |
<#(シャープ)がついた音>
| ドイツ | Cis(チス) | Dis(ディス) | Eis(エイス) | Fis(フィス) | Gis(ギス) | Ais(アイス) | His(ヒス) | Cis(チス) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドレミ表記 | ド# | レ# | ミ# | ファ# | ソ# | ラ# | シ# | ド# |
<x(ダブルシャープ)がついた音>
| ドイツ | Cisis (チスィス) | Disis | Eisis | Fisis | Gisis | Aisis | Hisis | Cisis |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドレミ表記 | ドx | レx | ミx | ファx | ソx | ラx | シx | ドx |
<b(フラット)がついた音>
| ドイツ | Ces(ツェス) | Des(デス) | Es(エス) | Fes(フェス) | Ges(ゲス) | As(アス) | B(ベー) | Ces(ツェス) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドレミ表記 | ドb | レb | ミb | ファb | ソb | ラb | シb | ドb |
<bb(ダブルフラット)がついた音>
| ドイツ | Ceses (ツェセス) | Deses | Eses | Feses | Geses | Ases | Heses | Ceses |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ドレミ表記 | ドbb | レbb | ミbb | ファbb | ソbb | ラbb | シbb | ドbb |
注)ドレミ〜はイタリー語なのですが、解り易くする為に「ドレミ表記」と記してあります。
【音階と音程】
【長調と短調】
ここから先に〜 durとか〜 mollなどというものが出てきますが、
[dur]は長調、[moll]は短調を示します。
C durとなればCの長調ですからハ長調、a mollとなればAの短調ですからイ短調となります。
(短調の場合、音名が小文字になります。)
【音程】
音の幅を示すのに、長2度とか完全5度とかいう方法で説明していますが、
この数字は、上の幹音を基準に音と音の間の距離を示します。
C−C等といった同じ音程の場合を1度として考え、
進むごとに2、3、4・・・度という風に数えていきます。
進み方は、とりあえず派生音(#やb がついた音)を考えずに幹音だけで考え、
2度上がったといえばCの隣のD音を指し、
6度上がったといえばCから数えて6つ目のA音を指すといった感じです。
Cから1オクターブ上のCの場合、
同じ音でも1度ではなくそのまま同じように数え、8度とします。
次に、音程が下がる場合はどうでしょう?
これも別に何も考えることはなく、
Cを基準とすれば隣のHの音は2度、7つ下のDは7度とします。
ここで、一つの法則が生まれます。
1度と8度はオクターブの関係で同名音になります。
この同名音の音程数を足すと9になる訳ですが、
例えば2度上のDと7度下のDのオクターブの場合でも、音程数を足すと9になります。
という事は、この9という数字からどちらかの音程数を引くと、
その音から1オクターブ離れた同名音の音程数が解るということになります。
9−X=その音とオクターブの関係の同名音の音程。
(8度以内に限ります。)
それをまとめると、
| 度数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 度数 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
という関係になることがわかります。
これで、オクターブを離れた音の音程が簡単に把握出来ます。
さて、これまでは幹音での数え方でしたが、
これに派生音がつくとどうなるのでしょうか?
これがまた厄介でして、その度数によって名称が異なるのです。
細かい説明は省きますが、
1・4・5・8度の音程は【完全系】
2・3・6・7度の音程は【長短系】
というように区別されます。
まず【完全系】から説明しますと、
その調の主音から幹音のみで数えた1・4・5・8度の音程を完全系といい、
この音程の前に「完全」という言葉をつけ、【完全4度】などといった言葉で表します。
これは幹音ならどこから数えてもいいという訳ではなく、
例えばFの音から4度進んだ場合、Cの音から進んだ場合よりも長い音程になります。
これは何故かといいますと、鍵盤を見てもらうと解りやすいのですが、
鍵盤のE-F・H-C 間には黒鍵盤がありませんよね?
黒鍵盤を混ぜるとC-Hまで12個音があるのですが、
その音から目的の音までの間に、これらを含め音が3つある状態を全音といい、
2つの場合を半音といいます。
例)
| 【C-D 間】 | =C | + | Cis | + | D (3つ)= | 【全音】 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 【E-F 間】 | =E | ++ | F (2つ)= | 【半音】 | ||
オクターブ内には隣り合った幹音同士が半音の関係になる部分が2箇所あるため、
幹音同士の音程関係が常に均一にはなることは有り得ないのです。
完全系の音程は(1・8度は別として)音程内に1つ半音を持ち、
4度なら2つの全音+半音、5度なら3つの全音+半音という関係になっています。
なので先程のFから完全4度進む場合、全音二つ分上がってG・Aと進み、
最後に半音進ませたBの音がFと完全4度の関係になるという訳です。
F・Fis・G(全音)
G・Gis・A(全音)
A・B(半音)
この完全を基準に、
半音音程が増えると【増】、(全音なら【重増】)
半音減ると【減】となり、(全音なら【重減】)
増4度、減5度・・・・といった感じで使われます。
例)C−Fis=増4度 C−Ges=減5度
対する2・3・6・7度の【長短系】は、
増・減音程に行く前に長・短の2つに分かれます。
細かく説明すると時間がかかるので手っ取り早い方法で説明しますと、
先程説明した「全音」の長さが【長2度】という長さで、
「半音」の長さに相当するのが【短2度】になります。
例)C−D(長2度)、C−Des(短2度)、
全音2つ(長2度+長2度)で【長3度】、
それより半音分短いのが【短3度】、
例)C−E(長3度)、C−Es(短3度)、
全音4つに半音1つで【長6度】、
それより半音分短いのが【短6度】、
例)C−A(長6度)、C−As(短6度)、
全音5つに半音1つで【長7度】、
それより半音分短いのが【短7度】
例)C−H(長7度)、A−B(短7度)、
となります。
長短系での【増減音程】に関しては、
増音程は長音程から更に半音または全音増えると【増・重増】に変化し、
減音程は短音程から更に半音または全音減ると【減・重減】に変化します。
例)C−Dis=増2度 C−Eses=減3度
ここでお気付きの方もいらっしゃると思いますが、
例えば C-Dis の増2度とC-Es の短3度などという場合、
DisとEsは同じ音になります。
これを異名同音というのですが、
音程を数えるときは、もちろんですがこの考えは通用しません。
自分が読みやすいからと勝手に読み方を変えてしまうと、
曲の構成上おかしなことになる可能性もありますので、
ここでは別の音として認識しておくのが妥当です。
しかも、異名同音の関係の音を同音と扱うのは平均律という音程の考えのみで、
ピアノなどの固定音程楽器や電子楽器では通用するのですが、
管楽器・弦楽器のような可変音程楽器ではちゃんと別の音として扱われます。
(実際、微妙に音程が違います。)
さて話を戻して、
実際どういう表記になっているかを、B管楽器を例に説明します。
B管楽器の譜面は普通のより長2度高く、
調号がない状態で譜面通りに演奏すると、実音は譜面より長2度低い音が鳴ります。
なので、譜面上のC音は実音のBの音ということになります。
実音のC durを演奏する時はどうなるのでしょうか?
上の関係から、実音Cである【D】の音から始めれば良い訳のですが、
B調は【B.C.D.Es.F.G.A.B】なので、BとEsにつくフラットが邪魔になります。
ということはこれを半音上げてHとEに戻してやる必要があるのですが、
普通のC調の譜面で派生音を幹音に戻す時はナチュラルを使いますよね?
しかし、これらの音はB調での幹音に相当する訳ですので、
その音にナチュラル記号をつけても意味がありません。
となると、どうすればいいのでしょうか?
答えは簡単です。
臨時記号に半音上げる記号がありますよね?
そう、シャープです。
この音に#をつけてやればここは一時的に半音上がり、
結果的に、実音のHとEの音になる訳です。

上記のように、移調楽器の指定は楽器名の後ろに inBb などと記し、他と区別します。
(トランペットでもC管やらA管のものもあるので。)
下図に、主要な移調楽器の名称とその楽器の基音を明記します。

ざっと書いてみましたが、お解り頂けましたでしょうか?
シーケンスソフトなどにはトランスポーズ機能があるので、
別にこれらを覚えていなくても打ち込みは出来てしまうのですが、
譜面をパッと見たときに何の音か解らないとやはり何かと不便ですし、
スコア読みが強くなり、自然に音楽の力もついてくるので、
オーケストラの打ち込みをされる方は覚えておいた方が良い知識といえます。
それによって楽器のことが少し解ってきて理論を学ぶ楽しさも実感できますので、
難解な管弦楽の知識に立ち向かうにも、強い味方となってくれるはずです。
これを機に、更にオーケストラの世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?